01あらゆる形態、規模の組織が、AI 技術とソリューションの導入に積極的に取り組んでいる。回答者の 90% が AI を自社の優先事項の 1 つに挙げているが、対処すべき課題が山積しているのが実情である。この技術分野はまだ初期段階であり、戦略的なベストプラクティスや確立されたガードレール、リファレンスアーキテクチャが不足している。多くの組織は、AI プロセスやワークロードのそれぞれの部分を実行する最適な IT 環境や、自社の業界やビジネスに適した AI アプリケーションのタイプをまだ模索している。
02現在、エンタープライズの AI 導入の意思決定における最優先事項は、コストではなく、データセキュリティとガバナンスである。調査結果では、データセキュリティ、データ品質、スケーラビリティ、開発までにかかる時間が、AI ワークロードを実行する際の考慮事項の上位を占めている。さらに、回答者の 90% 以上が AI 戦略においてセキュリティと信頼性を重要視している。回答者は一貫して、データ品質とデータ保護を含むデータセキュリティとガバナンスが AI 技術とサービスをサポートするために極めて重要であると指摘している。これにより、新たに拡大している AI 技術への予算がデータストレージ、セキュリティ、ガバナンスや保護をはじめとする重要な機能に割り当てられ、関連する IT インフラ市場は大きな利益がもたらされる可能性がある。
03エンタープライズは AI 導入を加速させるオプションを模索している。これは、深刻なスキル不足と競争力を維持する必要性に迫られた結果だと推測できる。調査対象の全ての組織(100%)が、今後 12 か月以内に、関連する取り組みをサポートするための追加の AI スキルを必要としている。短期的には、多くの組織が、AI モデリングとアプリケーション開発のスキルギャップと不足に直面することが予測される。スキル不足とリソースの最適化の理由から、ほぼ全てのエンタープライズ(90%)が既存の、商用またはオープンソースの汎用大規模言語モデルの利用を検討している。大半の組織は、既存の事前トレーニング済みのモデルを利用し、特定の使用をサポートするために微調整することで、リソースを最大限に活用し、新たな AI アプリケーションの迅速な市場投入を図ろうとしている。
04AI 技術の採用は、コア環境とエッジ環境間でのシームレスなデータモビリティに重点を置いた、ITインフラのモダナイズの新潮流を生み出している。回答者のほぼ全員(99%)が、AI データイニシアチブをサポートするために AI アプリケーションやインフラのアップグレードを予定しており、そのうちの半数以上が、クラウド、データセンター、エッジ環境間のデータ移動を改善する必要があると答えている。しかし、ほとんどの組織が、AI ワークロードをサポートできるようにインフラをモダナイズする効率的な手法を見つけ出すのに難航している。現在、プライベート、ハイブリッドクラウド、マルチクラウドのデプロイメントはすっかり定着しており、最新の IT インフラワークロードの代名詞となっている。AI 技術や、高速性と拡張性へのニーズの高まりにより、エッジ戦略やコアインフラのデプロイメントが IT のモダナイズを牽引することが予測できる。
AI 導入を優先事項として検討している
AI をサポートするためには自社の IT インフラの改善が必要である
AI のサポートにエッジ戦略への投資増大を検討している
未来は既に始まっている
AI ソリューションがエンタープライズの将来にとって重要であることは既知の事実であり、回答者の 90% が自社の優先事項として AI の活用を検討していると回答している。そこで次のような問いが生じる。「これらの優先事項はビジネスの具体的な取り組みやプログラムにどのような形で影響を及ぼすか?」「AI の導入における課題や障壁にはどのようなものがあるか?」なかでも最も重要な問いとなるのが、「新たな AI プログラムやアプリケーションが、自社の人・プロセス・予算にどのような影響を及ぼすか?」であろう。
現在、エンタープライズでは、AI を生成的な動画、テキスト、画像のアプリケーションや、バーチャルアシスタント、カスタマーサポートのソリューションに組み込むことで、さまざまな業務に活用している(図 1 参照)。AI ベースのソリューションを利用した不正検知やサイバーセキュリティ対策や、画像認識、音声認識、コンピュータビジョンなども、現在または検討中のユースケースの上位に挙げられている。
動画、テキスト、画像などの生成 AI
バーチャルアシスタントやカスタマーサポート(チャットボットなど)
不正検知・サイバーセキュリティ対策
画像認識・コンピュータビジョン
音声認識・自然言語理解
推薦システム
大規模言語モデル(LLM)
自然言語処理
自律システム
音声アシスタント
ゲーミング・娯楽向けアプリケーション
ヘルスケア・医療診断
顔認識
図 1:現在または今後 1 年以内の導入を検討している AI アプリケーション、ワークロード
AI 推論プロセスのデプロイメントの環境については、回答者によると、主にプライベートクラウドかエッジロケーション、または両方で実行されている(図 2 参照)。これは、パフォーマンスやレイテンシの要件に加え、分析対象データのデータローカリティや規制要件が背景にあると考えられる。例えば、秘密データや、専用データ、個人情報が含むデータなどを扱う組織では、専用のインフラ環境を利用することでより詳細な制御が可能になる。
オンプレミス/データセンター/プライベートクラウド
マネージドデータセンター/プライベートクラウド
エッジ/リモートサイト
単一のパブリッククラウド
複数のパブリッククラウド
図 2:AI 推論のワークロードを実行している、または実行を予定している環境
AI モデルを微調整する頻度については、調査対象の組織の 60% が毎月、または毎四半期に更新する予定だと回答している(図 3 参照)。エンタープライズにおけるデータアクセスの頻度を「ホット」から「コールド」で表すと、アクセス頻度が毎月から毎四半期であるケースは「ウォーム」に分類されます。この調査結果は、大半の組織が AI モデルとデータセットに対して比較的安定したレベルのアクスが必要になることを示唆している。
毎月またはそれ以上
毎四半期
半年ごと
毎年またはそれ以下
モデルの更新頻度についての計画はない
図 3:自社の組織が想定している AI モデルの更新頻度
AI 技術のベースラインの構築に関する最後の質問として、どのようなコンピューティング環境でアプリケーションをデプロイしているかについて尋ねたところ、調査対象組織の 63% が、現在 AI アプリケーションのデプロイメントに仮想マシン(VM)環境を利用し、62% がコンテナを利用していると回答している(図4 参照)。AI アプリケーションのデプロイメントがさまざまなコンピューティング環境に比較的均等に分散されていることは目を引く事実である。これは、仮想化環境とクラウドネイティブの両方の環境において、エンタープライズの IT 環境のあらゆる側面に AI 技術が広く適用可能であることをよく示している。
現在、いずれかの環境に AI アプリケーションをデプロイしている
今後いずれかの環境に AI アプリケーションをデプロイする予定
いずれの環境にも AI アプリケーションをデプロイする予定はない
仮想マシン(VM)
コンテナ
図 4:VM またはコンテナ環境に AI アプリケーションをデプロイしている、または今後デプロイすることを予定している。出典:Nutanix ECI AI レポート
IT のモダナイズとシームレスなデータモビリティに対するニーズの高まり
AI アプリケーションとワークロードが有益な結果を生み出すには、データへの制約のないアクセスが必要である。これが意味するものは、AI ドリブンのアプリケーションやプロセスが成功するには、プロセスやワークロードがセキュアで効率的なデータアクセスをするための統合されたデータ戦略が欠かせないということである。調査結果によれば、AI アプリケーションとワークロードのデータ要件の拡大により、エンタープライズのデータインフラに対する考え方は、次の 2点において大きな変化を見せている。
01AI ワークロードの要求に応えるには、IT インフラのモダナイズに対する長期的な投資が必要である。ほとんどの回答者(91%)が、自社の組織の IT インフラを改善し、AI ワークロードのサポートと拡張を容易にする必要があるとしている。現在のエンタープライズにとっての主要な課題には、データセキュリティ、耐障害性、スケーラビリティが含まれている(図 5 参照)。幸い、多くの組織では今後このニーズを満たすための予算を組むものとしている。回答者の 85% が、今後 1~3 年の間で、 IT インフラのモダナイズへの投資を増やし、AI ワークロードをサポートする予定であると回答している。
02AI ワークロードの要求に応えるには、データセンター、クラウド、エッジ環境を横断するシームレスなデータモビリティが必要である。多くの組織において、エッジインフラのデプロイメントや戦略は、そのコストと複雑さが原因で IT イニシアチブとしての優先度が低くなっているのが実情である。これに対し、ハイブリッドや、マルチクラウドの IT アーキテクチャは、多くの組織で既に導入されているが、このアーキテクチャに分散型またはエッジ型の構成要素が含まれているとは限らない。AI 技術の導入は、この状況を大きく変える可能性がある。データセンター、クラウド、エッジの拠点間でデータをシームレスに移動し、保護するニーズの高まりに加え、組織は、モデルをパブリッククラウドでトレーニングし、プライベートクラウドで微調整し、データに基づいてアクションを実行する現場のエッジにデプロイすると考えられるからである。本調査では、回答者の 93%がエッジ戦略の策定が AI 計画をサポートし、自社のプログラムの成功にとって重要であると回答している。ここでもまた、回答者は AI をサポートするエッジイニシアティブに投資する意向を示している。回答者の 83% が、今後 1~3 年の間で、 エッジ戦略に関する投資を増やし、AI ワークロードをサポートする予定であると回答している。
全体として、これらの調査結果は、アーリーアダプターにとって前向きな展望を示している。エンタープライズは、AI をサポートするためには、IT インフラのモダナイズが必要であり、エッジの導入を戦略の中心に据えることが重要であることを理解している。おそらく特筆すべきは、エンタープライズがこれを実現するための投資を惜しまないことである。
エンタープライズは AI をサポートするためにインフラのモダナイズの必要性を認識しており、そのために資金を投入する意向もあることから、課題の大部分は設計と導入の効果的な実現にあると結論づけることができる。本調査結果では、さらに設計という観点からも、AIインフラとアプリケーションのアップグレードに有効な分野についてのインサイトを提供している。データセキュリティの改善、インフラの耐障害性と稼働時間の向上、大規模なインフラ管理、インフラの自動化が、AI アプリケーションをサポートするための今後の優先事項となると予測される(図 5 参照)。
データセキュリティ
テクノロジーの耐障害性と稼働時間の向上
大規模な管理の効率化
自動化によるワークロードや従業員の負担軽減
GPU(画像処理ユニット)対応
データインサイトの取得
コスト
図 5:AI アプリケーションとインフラのアップグレードを推進する主な要因
AI 人材育成への戦略的投資で市場投入までの時間を短縮
組織は今後 1~3 年の間で、AI ソリューションの開発とデプロイメントをサポートする主要な領域全てについて投資の拡大を検討している。これには、それに伴う新しい技術やサービスの展開やサポートのために必要な人材やスキルの獲得も含まれている。84% の回答者が、今後数年間でデータサイエンスやエンジニアリングチームを拡大するための投資を増やすことを検討している。多くの組織が、AI イニシアチブをサポートするためには、人材やスキルの獲得への投資が必要であると認識していると思われる。調査結果では、生成 AI・プロンプトエンジニアリング、およびデータサイエンス・データ分析が、今後 1 年間に AI スキルに対する需要が高まると予測される領域のトップ 2 であった(図 5 参照)。
生成 AI・プロンプトエンジニアリング
データサイエンス・データ分析
環境・社会・ガバナンス(ESG)レポートの作成
開発業務
研究開発
製品開発
ロジスティクス・サプライチェーン計画
戦略的な意思決定の促進
プラットフォームエンジニアリング
基幹業務
図 6:今後 12 か月の間で、 AI スキルに対する需要が高まると予測されるのはどの領域か?
調査の回答者は、ESG レポーティングを今後 12か月の間でAI 関連スキルの需要が高まると考えられる主要な領域に挙げている。この領域が、研究開発や製品開発など他の選択肢よりも上位にランクされたことは、やや意外である。
しかし、現実には過去 12~24か月で、持続可能性や ESG への取り組みは、多くのエンタープライズや経営幹部の優先事項リストのトップに挙げられている。こうした傾向にはいくつかの理由がある。そのなかには、不安定な経済とインフレの時代における IT の運用やコストの最適化のニーズなどが含まれる。しかし、さらに重要な理由は、多くの組織が、新たな規制やコンプライアンス要件によって、持続可能性報告書や ESG 測定の能力を向上させる必要に迫られていることである。
その重要な理由の例のひとつは、米国証券取引委員会(SEC)の規則案である。この規則は、上場企業に対し、スコープ 1、2、3 の排出量報告を含む、直接的および間接的な温室効果ガス排出量に関する情報開示を義務付けるものである。
これが、AI 関連スキルの需要が高まる領域に対する調査の結果に ESG レポートの作成が上位にランクされている主な理由であろう。エンタープライズは、AI アルゴリズムやワークロードを実行するには、コンピューティングや GPU が必要であり、それは膨大なエネルギー量を消費することを知っている。調査結果は、エンタープライズが既に ESG への取り組みや、関連する排出量報告に与える影響を考慮していることを示している。
新興テクノロジーの場合、スキル不足を特定して補完することは、継続的に発生する課題であり、通常、予測される課題である。しかし、人材やスキルの不足が新興テクノロジー市場の方向性にどのように影響を与えるかは、通常は予測困難である。AI ソリューションとサービスにおいては、本調査で興味深い結果がいくつか明らかになっている。回答者の 85% が、AI アプリケーションの構築に既存の AI モデルの購入または既存のオーブンソースの AI モデルの利用を検討していることがわかった。一方で、独自のモデルを構築する予定だと答えた回答者はわずか 10% に過ぎない(図 7 参照)。トレーニング済みの既存の大規模言語モデル(LLM)を活用すると回答した組織の割合が高いのは、既存モデルを導入し、自社固有のデータで微調整することで、利用可能なリソースを最適化し、自社のニーズを満たす必要性の指標ともいえるだろう。
既存のモデルを購入し、AI アプリケーションを構築する予定
オープンソースのモデルを利用し、AI アプリケーションを構築する予定
独自のモデルの構築により、AI アプリケーションを構築する予定
既存のモデルと、構築する独自のモデルを組わせて利用する予定
図 7: 現在、または将来的に、既存のモデルを利用する、もしくは独自のモデルを構築するか?*注:四捨五入のため、合計は 100% にならない。
この調査から得たインサイトは、重要な仮説を示している。IT ソリューションの「構築か購入か」という点では、エンタープライズは、自社で独自のモデルを開発せずに、信頼できるプロバイダから既存のモデルを購入またはオープンソースで取得し、AI アプリケーションの開発のニーズを満たすだろう。理由は次の 2 つが考えられる。(1) 新たな AI アプリケーションの市場投入までの時間を短縮し、競争力を維持するため。(2) 既存のリソースを最大限に活用するため。
さらに、この傾向は、エンタープライズによる AI インフラへの投資や意思決定にも影響すると予測できる。さまざまな AI モデル(大規模言語モデルなど)の作成とトレーニングに必要なインフラは、モデルの推論、微調整、これらの AI モデルに依存する高度なアプリケーションの実行に求められるインフラとは性能や特性が大きく異なる。回答者に今後 1~2 年に予想される AI の最大の課題を質問したところ、上位からデータセキュリティ、コスト効率の高いインフラの提供、ミッションクリティカルな回復力の確保、ワークロードのスケール管理であり、データモデリングは、上位 5 番目にランク付けされている。調査結果のデータから、エンタープライズの多くがインフラのニーズに重点を置いて AI モデルの導入をサポートし、ROI の最大化を図ろうとしていることが明らかになった。
データのセキュリティ・品質・ガバナンス
AI アプリケーションとサービスは、その基盤となるデータセット、モデル、インフラと共生的な関係にある。エンタープライズはこの関係を極めて重視しており、データのセキュリティや品質を向上させるための戦略を立案し、自社の AI 技術の信頼性や耐障害性を可能な限り高めることの重要性を認識している。この傾向は、調査結果からも明らかであり、回答者が選択した、AI ワークロードを実行または計画する際に最も考慮すべき事項は、データセキュリティ(第 1 位)とデータ品質(第 2 位)であり、いずれの割合も他の選択肢に比べて際立っている(図 8 参照)。
データセキュリティ
データ品質
拡張性
デプロイメントにかかる時間
データ主権
データグラビティ
現行システムとの連携
GPU(画像処理ユニット)対応
データレイテンシ
コスト
データローカリティ
図 8:AI ワークロードを実行または計画する際に最も重要な考慮事項
2023 年の時点において、メディアの宣伝と AI ツールやサービスの商業的な利用可能性が、AI 技術に対するエンタープライズの関心を新たな高みに押し上げている。この誇大な宣伝の効果もあり、AI ワークロードの実行や計画に関しての優先事項では、コストは下から 2 番目にランク付けされている。さらに、 90% 以上の回答者が、AI アプリケーションによって IT コストとクラウド支出の両方が増加すると予測している。
この AI ソリューションへの支出に対する寛容な姿勢は、アーリーアダプターにとって確実にメリットをもたらす。プロジェクトや技術の評価、導入において、コストや予算の障壁はほとんどない。
しかし、このハネムーン期は永遠に続くわけではない。さらに、今後 1~2 年の間に組織が直面する最大の課題についての予測を尋ねたところ、データセキュリティの次に多く選択された課題は、必要なインフラをコスト効率よく提供することであった。いずれは、AI プロジェクトや技術に関する予算や支出も、他の IT ポートフォリオと同じレベルになることが予測される。現在の AI プロジェクトは、今後も無制限に支出できる状況が続くと考えずに、長期的な予算や運用効率を踏まえて設計すべきである。
調査結果では、データセキュリティやデータ品質に加え、AI 技術は、基盤となる重要なデータセットに対するデータ保護プラクティスの実行などといったデータガバナンスの強化を推進することが明らかになった。回答者の 51% が、AI データガバナンスをサポートするために、ミッションクリティカルまたはプロダクションレベルのデータ保護やディザスタリカバリ(DR)ソリューションの導入を検討していると答えている。さらに、調査対象の組織の半数が、AI をサポートするためにエッジ環境でデータ保護やガバナンス戦略を定義する予定だと回答している。多くの新興テクノロジーの領域では、エンタープライズはフロントエンドのアプリケーションやサービスの開発を競い合うことに注力し、データガバナンスは後回しにされる傾向がある。しかし、今回の調査結果は、AI 技術に関してはそうではないことを示している。AI ソリューションの効果的な動作には、安定したデータアクセス、品質、スケーラビリティが不可欠であり、データの保護とセキュリティは、あらゆる AI ワークロードにおいて極めて重要となる。
IT インフラをモダナイズへの投資を増やして AI をサポートする見込み
AI の導入により IT コストが増加する見込み
AI の導入によりクラウドのコストが増加する見込み
2023 年は、人工知能(AI)が大きく注目を浴びたが、エンタープライズでの AI ソリューションの利用は、まだ初期段階にある。組織はまだ適切なワークロードやユースケースを特定し、最適な適用方法を見つけ、予算への影響を見極めている段階である。アーリーアダプターは、ソリューションのデプロイメントを加速させることで、短期的な優位性を得ようとするだろう。一方で、長期的なアプローチをとり、時間をかけて必要な人材やスキルを育成し、インフラのモダナイズや社内の AI モデル構築、アプリケーション開発を含めた開発戦略を進めるエンタープライズもある。どちらのアプローチが最良の結果をもたらすかを予測するのは時期尚早だが、調査結果に基づいた提言を次に挙げる。
01 データのモダナイズとモビリティに備えてインフラを整備する。AI 技術やソリューションを効果的に導入するには、データセンター、クラウド、エッジという各環境間でのデータの移動と管理が必要になる。それぞれの環境はエンドツーエンドの AI ワークフローをサポートするうえで重要な役割を果たす。例えば、エッジ環境がローカルで行うデータクレンジングやデータ処理は、データのトレーニング、推論、大規模格納を行うデータセンターまたはクラウドデータセンターに送った後で実行することも考えられる。これは、IT やインフラの専門家にとって容易な作業ではない。場合によっては、AI 技術をサポートする最新のインフラソリューションを構築するために、大規模な再構築、トレーニング、サポートが必要になる。多くのエンタープライズは、この取り組みをシンプルにするためのソリューションを模索していくと考えられる。
02AI スキルの開発に投資し、人材不足に備える。調査対象の全組織が、今後 12か月の間に、さまざまな関連領域でより多くの AI スキルが必要になると回答している。このことは、生成 AI、データサイエンスや分析、研究開発、プラットフォームエンジニアリングといったソリューションについて、サポートや開発の有限なリソースをめぐる大きな競争が生じることを意味する。自社で AI モデルやアプリケーションを構築することを選択した組織は、スキル不足の影響を最も大きく受けるだろう。
03データセキュリティ、データ品質、データ保護を AI 戦略の中核に据える。AI 技術とソリューションを導入する必要性は、データセキュリティやデータ保護の戦略を見直すきっかけとなっている。データにアクセスできなければ、当然ながら AI ベースのアプリケーションやソリューションの多くは機能しない。データセキュリティとデータ保護のソリューションが、エンタープライズの AI 技術のエコシステムや戦略を形成するうえで、中心的な役割を果たすものと考える必要がる。
04将来のインフラコスト削減の要請に備える。AI モデルやアプリケーションの開発、ビジネス成果の創出を急ぐ「ゴールドラッシュ精神」的な動向により、AI イニシアチブに対する予算超過や過剰支出を短期的には受け入れる結果となる。しかし、これはあくまで一時的なものに過ぎない。組織は今後 1~ 2 年の間に、AI を支えるインフラの費用対効果を早急に改善(および測定)する計画を策定すべきである。
組織内でどのチームや部門が AI の導入に積極的かを尋ねたところ、IT 部門が回答数のトップであり、DevOps 部門と情報セキュリティ部門が 2 位の座を分けた。組織内でどのチームや部門が AI の導入に積極的かを尋ねたところ、IT 部門が回答数のトップであり、DevOps 部門と情報セキュリティ部門が 2 位の座を分けた。この 3 部門はいずれも、エンタープライズの AI 技術における意思決定、戦略、導入において今後大きな影響力を持つことになる。しかし、今回の調査で、IT 部門の意思決定者と DevOps 部門の意思決定者の AI 戦略と優先事項についての考え方には、興味深い微妙な違いがあることがわかった。
DevOps 部門はオープンソースモデル開発を推進:オープンソースのモデルを利用し、AI アプリケーションを構築する予定であると回答したのは、 IT 部門の意思決定者で 33% だったのに対し、DevOps 部門の意思決定者では 48% であった。
サステナビリティと ESG における見解の違い:DevOps 部門の意思決定者は、今後 12か月の間で、AI 関連のスキルの向上が重要になる領域として ESG レポーティングを第 2 位に位置付けており、データサイエンス・データ分析、研究開発よりも重視している。同じ質問に対する IT 部門の意思決定者によるランキングでは、ESG レポーティングは第 5 位である。
機械学習オペレーション(MLOps):AI モデルの更新頻度に関しては、毎月またはそれ以上の頻度を予定しているのは、IT 部門の意思決定者のうちわずか 14% にすぎないが、DevOps 部門の意思決定者では、この割合が 25% まで増加している。この違いは、AI のデータセットの要件と MLOps の要件の不整合という重大な事実を浮き彫りにしている。
AI 技術の課題:IT 部門の意思決定者は、今後1~2 年間での AI 関連の課題のトップにデータセキュリティを挙げている。一方、DevOps 部門の意思決定者は、ミッションクリティカルな耐障害性の確保とビジネス SLA の達成を僅差の 1 位と 2 位に選んでいる。
コンテナ vs. 仮想マシン(VM):現在 AI アプリケーションをコンテナにデプロイしていると回答した IT 部門の意思決定者の割合が 59% だったのに対して、DevOps 部門の意思決定者の割合は 66% であった。明らかに、DevOps 部門は、AI アプリケーションのデプロイメントにコンテナベースを好んでいることがわかる。興味深いことに、仮想マシン(VM)上での AI アプリのデプロイメントについては、この傾向は見られず、両部門の意思決定者グループが近似した割合(IT 部門:62%、DevOps 部門:63%)を示している。
本レポート「エンタープライズ AI の現状」は、Nutanix が、グローバルエンタープライズにおける人工知能(AI)の導入状況について実施したグローバルな調査結果をまとめたものです。英国の調査会社 Vanson Bourne によって、2023 年 7 月から 9 月にかけて、世界中の IT および DevOps、プラットフォームエンジニアリング部門の意思決定者 650 名を対象に、エンタープライズにおける AI 技術の戦略と導入に関するさまざまな側面についての調査が実施されました。この調査は、現在のエンタープライズにおけるAIのデプロイメントやトレンド、また、計画されている実装がITとクラウドの支出と予算にどのような影響を与えるかについての基本認識を明確にすることを目的としています。また、組織が AI 戦略を策定し、ソリューションを導入する際に直面する主要な技術、インフラ、スキルに関する課題も掘り下げてしています。
本レポートは、競争力を維持するためには AI の技術とソリューションが必要であるという点について、多くのエンタープライズが共通の認識を持っていることを明らかにしています。さらに重要な点として、AI ソリューションを採用する企業に共通する重要なテーマが明らかになりました。データセンター、クラウド、エッジインフラ環境間でのデータモビリティとデータ保護に対するニーズが高まっているということです。このテーマは、調査のさまざまな場面で共通にみられることから、エンタープライズ AI のアプリケーションとワークロードの導入が、データモビリティ、セキュリティ、および保護に焦点を当てた IT インフラのモダナイズに新しい潮流をもたらすであろうとの結論に至りました。これらのテーマについては、それを裏付ける調査結果とともに、本レポートで詳しく説明しています。
本レポートの調査対象者は、北南米(Americas)、欧州、中東・アフリカ(EMEA)、アジア太平洋・日本(APJ)地域の、さまざまな業界、事業規模の組織に所属する、IT および DevOpts、プラットフォームエンジニアリング部門の意思決定者です。